アリババと40人の盗賊(3)
その夜、カ-スィムの妻は夫が帰ってこないのでとても心配になり、アリババの家に来て、丁重にかれにたのみました。
「カ-スィムが家に帰らないのです。どうか、かれをさがしてください。」
アリババはかの女のたのみを聞いて、さっそく、どうくつに向かいました。すると死にかけている兄をそこで見つけたのです。そこで兄をロバの背に乗せて連れ帰ると、家族の者たちにこのことをふせておくように命じて、兄の妻にこう言いました。
「もしだれかがカ-スィムの事を聞いたら、ただ、かれは病気だ、とだけ言いなさい。
わたしと妻はあなたたちのところにちょくちょく兄の見まいに行きます。でも、かれの治りょうのために手伝ってくれる人が必要です。」
すると、カ-スィムの妻の召使いをしていたマルジャーナという娘が話に入ってきて、こう言いました。
「助けてくれそうな老人をわたしは知っています。かれは靴職人の老人で、病気治りょうの経験があるのです。わたしがかれのところに行き、少しばかりのお金で来てくれるようにたのんでみましょう。」
翌朝、マルジャーナは日がのぼって人々が仕事に出かける前に、急いで老人の店に行って老人に会いました。かれはいつもどおり、夜明けとともに仕事を始めていました。
マルジャーナは急いで言いました。
「わたしといっしょに家へ来ていただけないでしょうか? 死にそうな病人がいるのです。
もし助けていただけるのなら、このお金を全部差し上げます。」
老人はマルジャーナの心のこもった言葉や、死にかけているという病人に同情してこう言いました。
「娘さん、あなたたちの家はどこにあるのかな?」
そこでマルジャーナはこう言いました。
「申し訳ありませんが、家の場所を言うことはできないのです。あなたが場所を知る必要はありませんから、あなたは目を閉じていてくだされば結構(けっこう)です。わたしがご案内しますから、どうか着くまで目を閉じていてください。」
こうしてマルジャーナは老人をカ-スィムの家に連れて来て、かれがふせっている部屋に通し、こう言いました。
「もう目を開けてもいいですよ。どうかこの人をみてください。この人を助けるために何かできるでしょうか?」
すると、その思慮深い老人は首をふって言いました。
「非常に悪い状態です。しかし、できるだけのことをしてみましょう。」
老人はカ-スィムの傷の方に身を乗り出し、注意深く傷口に包帯をして、かれのために特別な飲み物を用意しました。それから、じっとかれを見守り、何時間も看病をしてくれました。そしてこう言いました。
「わたしはこの人のためにできるだけのことをしました。」
そこでマルジャーナは言いました。
「おじいさん、いろいろとよくしてくれてありがとう。すぐにわたしがあなたをお店に送って行きましょう。ただ、わたしはあなたがここに来たことをだれにも知られたくはないのです。」
それから老人は目を閉じ、マルジャーナがかれを店に送りけました。
しかし、それから何日もたたないうちに、カ-スィムは亡(な)くなりました。そこで、マルジャーナはすぐに外に出てさけびました。
「ご主人様が亡くなった……、ご主人様が亡くなった……。」
その声を聞いた近所の女たちは、だれがさけんでいるのかと思って、みな家から出てきました。そこでかの女たちは、悲しみにくれて窓から見下ろしているカ-スィムの妻を見たのです。
翌日、人々はカ-スィムと別れを告げ、かれの遺体は町の郊外の墓地に埋葬されました。それから、アリババと妻は、兄の妻といっしょに暮らしてかの女をなぐさめようと思い、カ-スィムの家へ移り住みました。また、アリババの息子も叔父の店で働き、店を切り盛りしました。
それから間もなく、とうぞくたちはどうくつにもどってきました。そしてとびらを開くと、カ-スィムの死体がなくなっていたので、このように言い合いました。
「だれかあの死体を持っていったにちがいない。どうくつの秘密を知った者をだれかがさがしに行かなければ!」
すると、とうぞくの一人が言いました。
「その仕事はおれがやろう。」
翌朝、その男は秘密を知った男をさがしに飛び出して行きました。
そしてようやくあの靴屋の店にたどり着き、先の老人に近づいてこうたずねました。
「じいさん、あんたはみなに靴を売っているのだから、人はみなあんたを信用しているのだろうね。」
すると靴屋はほこらしげに言いました。
「もちろんさ。靴だけじゃなくて、かれらは、ほかのことでもわたしを信用しているのだよ。たとえば、昨日なんかも、死にかけで、さし傷のある男の命を助けてくれとたのまれたばかりだよ。しかし行ってやったがおそすぎたようで、あんまり多くのことはしてやれなかったがね。」
それを聞いたとうぞくは言いました。
「何だって? おまえが行ったその家を教えてはくれないか? そうすれば、金貨の入ったこのふくろをおまえにやってもいい。」
その靴屋は言いました。
「わたしも、それがどこにあるか知らないのだよ。途中ずっと目を閉じさせられて、ある娘(むすめ)がわたしを案内して連れて行ってくれたんだから。」
そこでとうぞくは言いました。
「それでは……おまえは目を閉じて、おれといっしょに歩くようにするのだ。そうすれば場所が分かるかもしれない。おまえは、右に行ったのか、左に行ったのか、道は遠かったのか、近かったのか、思い出すようにするのだ。さあ! 行こう。手を出して。目をつぶるがいい。」
こうして二人はさっそく出て行き、やがてカ-スィムの家の前に来ると、老人は立ち止まってこう言いました。
「ここだ、確かこの場所に来たのだと思う。」
そこで、とうぞくはその家の門に白い印をつけ、老人といっしょにかれの店にもどり、金貨のふくろをわたすと、もと来た道を帰って行きました。
マルジャーナが買い物をしに市場に行こうとして外に出ると、門の上に白い印がかかれていました。かの女はそれを不審(ふしん)に思い、ひとりごとを言いました。
「この印をつけたのはだれだろう? 近所の子どもだろうか? いや、そうではなさそうだ。いったいなぜ、うちの門にだけ印をつけたのだろう?」
そこでマルジャーナは、ほかの家の門にも同じように印をつけ、それから買い物に出かけました。
先のとうぞくはいったんどうくつへもどり、急いで仲間のところに行ってこう言いました。
「さがしていた男の家を見つけたよ。だからいっしょに来てくれ、おれが案内するから。」
そしてその場所へ着くと、先のとうぞくは多くの家の門に白い印がついているのを見て、自分がさがしていた家がどれなのか見分けられませんでした。かれらは途方に暮(く)れてしまい、結局どうくつに帰るよりほかありませんでした。
そしてどうくつへもどると、別のとうぞくがこう言いました。
「今度はおれにやらせてくれ。」
翌日(よくじつ)、老人の靴屋は先のとうぞくにしたように、その男について行きました。そして、その家を見つけたので、今度のとうぞくはその門に赤い印をつけ、ひとりごとを言いました。
「この門のほかは、みな白の印がついている。赤い印がついているのはこの門だけだ。」
やがてマルジャーナは市場から帰ってきて、家の門に今度は赤い印がついているのに気がつきました。そこで、前と同じように、ほかの家の門にも赤い印をつけることを思いつきました。
それからとうぞくたちは町にもどってみたのですが、事態(じたい)は前と同じくはっきりせず、かれらはめざす家を見つけることができませんでした。とうぞくの首領は困ってしまい、手下たちにこうさけびました。
「これでは何の役にも立たない! こうなったら、わしが自分で行って家を見つけなければだめだ。」
こうしてとうぞくたちの首領は、自分一人で靴屋に行きました。老人は二人のとうぞくにしたように、かれといっしょにその家に行きました。しかし首領は門に印をつけたりせず、するどいまなざしでその家をじっと見つめ、そのまま帰って行きました。
そしてもどると、手下たちを集め、「良い方法を考えさせてくれ。」と言いました。
翌日になると、首領は手下たちに言いました。
「よし、わかったぞ! おまえたちはすぐに行って、油を入れる大きな壷をたくさん買ってこい。だが、油を入れるのはその中の一つだけで、残りの壷は空のまま持って帰ってくるのだ。」
とうぞくたちはおどろき、「何のために?」とさけびました。すると首領はこう言いました。
「おれが自分であの家に馬たちを引いて行く。馬が運ぶ壷の中に、おまえたちはかくれているのだ。そしておれは、あの家の主人に、自分は遠来の旅人で、長い道のりを旅してきたから、その夜は家にとめてくれるようにたのむことにする。」
そこでとうぞくたちは、「じゃあいったい、おれたちは何をするのだ?」と言いました。
すると首領はこう言ったのです。
「おまえたちは壷の中にしゃがんでいるのだ。大きな壷だからじゅうぶんに場所があるだろう。そしてその時が来たら、何をするかをおまえたちに伝えよう。」
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